『黒洞々』のレビュー行くぜ!俺がプレイしたのはSwitch2版ね。
パブリッシャー:テンダゲームス
機種:Switch2/PC
ジャンル:マルチエンディング・アドベンチャー
発売日:2026/1/30(PC)2026/6/25(Switch2)
価格(税込):920円
池袋に居を構えるテンダゲームスが自社開発&自社パブリッシングで送るADV。
下請けとしては色々やっているところで、個人的にはD3から出た『5分後に意外な結末 モノクロームの図書館』『ふしぎ駄菓子屋銭天堂 ふしぎ駄菓子ばなし50選』の印象が強い。
不思議な街に閉じ込められた主人公が脱出を目指すシナリオで、減り続ける「人間の尊厳」がゼロになると死亡!
油断ならない住人たちとのやり取りで尊厳を取り戻しつつ、弱肉強食の街で生き抜く内容だ。
芥川龍之介の『羅生門』を下敷きにしており、『黒洞々』というタイトルも本文から取られているぞ。

物語は胸に穴が開いていて医者に大金積まないと死ぬかもしれない男が、歌舞伎町っぽい門の前でぶっ倒れてるキャバ嬢から、物を盗むか悩むシーンから始まる。
なるほど羅生門じゃねーの。
最初の選択肢は金を盗むかバッグを盗むか。
どうあっても手を汚すところから、この底辺の街での生活がスタート。
主人公は新聞4コマのキャラみたいな顔なのに、理不尽に翻弄され搾取され振り回される姿が描かれる。

出会うことになる13人のNPCたちは性格がねじ曲がった奴ばかり。
話せば話すほど、この街は底辺が集まる場所なんだと実感させられる。
メインヒロインっぽい立ち位置のユノちゃん、可愛いけど口悪くてすぐにこっちをカス扱いしてくる。まあ主人公はカスなんだが……。

ヘビみたいな顔した闇金とか、全身傷だらけのヤクザとか、モチーフを記号的に落とし込んだキャラデザは面白いし、ロクでもない連中ばかりだけどセリフ回しにも味がある。

様々な文学から引用するイグチ先生、交流を深めてお願いをすると……。

最後の最後で
「あとは蟹工船にでも乗った気持ちで 待っていてもらえれば、すべてうまくいきますわ」
とか言い出して一気に信用ならないキャラになる。お前ワザとやってるな!?

ADVとしては単純で、そこまで広くない街のマップに配置された13人のNPCと会話していく。
会話を進めると出る選択肢でストーリーが分岐していくが、どの選択肢も主人公にとって悩ましい決断を要求してくる。

怪しい金貸しから金を借りるか借りないか。金を稼ぐのに暴力を使うか知力を使うか。医者に頼るか頼らないか。薬に頼るか宗教に頼るか。闇バイトをするか行政に頼るか。人を騙すか騙さないか。
どっちを選んでもロクなことにならないのでは……?という選択肢ばかりで、主人公も尻込みをして選択が出来ない。

そこでNPCとの会話を更に続けることで、選択肢の根拠となる「心得」が集まっていく。
一定以上集まったら選択を選んで先に進める構成だ。
まあ、つまり狭いフィールドをグルグル回ってNPCとしらみつぶしに会話していけば、選択肢も選択に必要な材料も手に入ってゲームが進む。
主人公の胸に空いた穴からは時間経過やミスで「尊厳」が零れ落ちていき、尊厳ゲージがゼロになるとゲームオーバーだが、直前から再開できるので難しいところはない。

選択した後は「彼岸の門」がスタート。
集まった情報を正しく選んで自分を納得させていくパートだ。ミスらず突破出来れば尊厳ゲージが大きく回復する。
選択肢がひどいのばかりなので、自分を無理矢理納得させて、ヤバいことに手を染める主人公の小悪党っぷりを多く見ることになる。
闇バイトで切られるのは下っ端だし、俺がやるのは闇バイトを監督する仕事だから大丈夫だな!ヨシ!
みたいな。よくねーよ!

裏社会が探している「カッパの皿」を利用して稼ぐことになり、手元にあった骨董品の皿を使うことになる。
これをカッパの皿と言い張って相手を騙したいが、無理があるような……だって裏面に寿司屋のチェーン店のマーク入ってるし……いやいやまず自分が信じることが大事なんだ!
こんなのばかり!

善と悪の狭間で迷いつつ、生きるためにテンポ良く堕落していく主人公と、会話で深まるNPCとのやり取りが面白く、遊んでいて続きが気になって来る作りだ。

宗教家に貧しいものへの施しとして渡されたメシをクソ配信者に食われた時の
「貧しいものにほどこすつもりだったが、心貧しいものへのほどこしになってしまった」とか、ちょっとした言い回しが良い。
エンディングはどれもこれもロクでもないものばかりで、明らかにダメそうなルートでも、希望がありそうなルートでも酷い目にあうオチばかり。
マルチ「下人の行方は誰も知らない」エンディングである!

エンディングを見る度にリストが埋まっていくが、コンプリートしても特に何も無いようだった。
真エンディングの条件はハッキリとは分からないが、半分以上のエンディングを見た時点でフラグが立ち、街中に出現したとあるものを調べると分岐するっぽいかな?

エンディングは13+1個あるが、1プレイが短いので全部見ても3時間ほど。
2週目以降は済ませた「心得」集めなどをスキップ出来るものの、セーブデータを分けたりチャートを見たりといった機能が無いため、やや分かり辛いマップをグルグル回る作業を何度もやることになる。ADVとしては単純だけどやや面倒だった。
ただ、どうしようもない地獄のような日々をテンポ良く、悲惨でありながら時にコミカルに描いた会話の数々が印象的だし、「生きるために必死だった主人公はどうすれば良かったんだ?」と言いたくなる理不尽を散々見た後の真エンディングが光る構成。
HPゲージじゃなくて尊厳ゲージなのもハマってる。実質的にHPゲージだとしても尊厳ゲージにしたことに意味がある。
『羅生門』はあくまでもモチーフくらいかと思ったら、最終的に制作スタッフが両手に髪の毛と着物を持って、回転しながら羅生門に飛び込んでいくような展開になって色々凄かったぞ真エンディング!作家性を押しだしたこのシナリオ、俺はかなり好き。青空文庫で読めるし短編なので遊ぶ前に一読を推奨するぜ。
尖った短編ADVとして、クセの強さも含めて面白い1本でした。