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想像を凌駕する「怖い話」の底なし沼!『アパシー 鳴神学園七不思議』レビュー!【Switch】

 

アパシー 鳴神学園七不思議 公式サイト

 

『アパシー 鳴神学園七不思議』のレビュー行くぜ!

 


パブリッシャー:メビウス

機種:Switch

ジャンル:ホラービジュアルアドベンチャー

発売日:2022/8/4

価格(税込):7678円


 

1995年の『学校であった怖い話』から始まり、

同人ゲームや書籍で多数展開してきた『アパシー』シリーズの最新作だ。

初代『学校であった怖い話』をベースにしたリブート作品。

新シナリオに加えて、

歴代のシリーズ作品からも様々なシナリオを収録している。

舞台設定を現代にしてキャラの設定も新しくしているため、

過去のシナリオも書き直されているぞ。

 

内容は昔ながらの選択肢で分岐するビジュアルノベルで、

様々な「怖い話」を聞いていく短編集的な構成だ。

1週も短くサクッと遊べるが、圧巻なのはその分量。

テキストは300万文字以上、

エンディングは500以上という規格外のボリューム!

つまり「短編集だけど大作以上のボリュームがあるノベルゲーム」ってわけよ。

 

原作・脚本の飯島多紀哉 氏は

2007年の『四八(仮)』を最後にコンシューマ作品から遠のき、

2018年にSwitch版『送り犬』が出るまで同人ゲームや書籍などに注力していた。

なので『四八(仮)』の評判でしか名前を知らない人も結構いそうだが、

そういう人に言いたい。「飯島、すげぇぞ」と!

 

 

舞台はとあるマンモス高校「鳴神学園」。

新聞部の坂上修一が学園七不思議の取材のために、

集められた語り部たちから「怖い話」を聞いていくノベルゲームだ。

聞ける「怖い話」は途中の選択肢によって全く異なるストーリー展開になる。

7人呼んだはずなのに集まったのは6人という謎は、

最後のシナリオで明らかになったり、ならなかったりするぞ!

そして「怖い話」を聞いてるだけなのに、

主人公が死んだり死ななかったりする!

 

いわゆる「真のエンディング」的なものは無い。

特殊な条件で辿り着ける長編シナリオは存在するし、

学校の謎が明らかになるエンディングや、

作品そのものを総括するエンディングもあるが、

選択肢によって根幹設定まで変わっちゃうゲームなので

どれを結末として受け止めるかはプレイヤー次第。

ゲームの目的は「プレイヤーが満足するまで怖い話を楽しむ」なのだ。

 

 

個性豊かな語り部6人から好きな順番で話を聞いていく。

過去作だと順番によって語り部の話が変化していたが、

今回はどの順番にしても基本の話は同じ。

ただし、「順番が〇〇の時だけ出現する選択肢を選ぶと聞ける」

みたいな話が山ほどあるので、順番が大事なのは変わらないぞ。

 

 

6人は一癖も二癖も……どころじゃないくらい引き出しの多い面子。

新堂誠は見た目はいかにも不良でちょっと乱暴だが頼れる兄貴分だ。

部活関係の怖い話が多く、自身もボクシング部に所属している。

「スポーツはいいぞ」は過去作から今も語り継がれる名セリフ。

 

 

荒井昭二は陰気な性格だが、知識欲が旺盛で意外と活動的な描写も多い。

自身の体験談、あるいは間近で観察した数々の奇怪な事件を、

影を刃物で掘るような語り口で語ってくれる。

友人の話がはじまると、高確率でその友人が死ぬのでスペースコブラみたいだ。

淡々した語り口だけどどうしようもなく感情が乗ってる時があって、

荒井さんが一番輝いてるのはその時だと思う。

 

 

福沢玲子はカラッとした明るい性格だが、

そのノリで恐ろしい話や気持ち悪い話を語るスタイルだ。

会話の端々にサイコパス的な言動が滲み出ることもある。

話してるお前が怖いよ!的なタイプ。

 

 

風間望は自己中心的なナルシストで分かりやすいギャグ枠。

一体何の話を聞かされているんだ……という、

アホな話の連発で主人公もプレイヤーも呆れさせるが、

たまにゾクッとする話を混ぜてくるからたまらない。

今回エンディングが500以上とか宣伝してたけど、

風間さんのクソオチがそこそこの割合占めてねーかな!?

 

 

岩下明美は黒髪ロングで美人の先輩。愛憎渦巻く話を多く語ってくれる。

嘘や裏切りを絶対許さない性格かつ、

地雷がどこに埋まってるか分からないやべー人。

彼女に殺されるエンディングも多い。

トレードマークのカッターナイフが出てくると

「よっ!待ってました!」という気持ちにさせられる。

 

 

細田友晴はトイレに篭るのが大好きなトイレのエキスパート。

とにかくトイレに纏わる「怖い話」を連発してくる。

おどおどしたいじめられっ子的な性格だが、

一転して調子に乗り始めた時のウザさは芸術的で、銅像が作られそうなレベル。

その銅像は俺が壊しておく。

 

 

この他にも新聞部の先輩で重要ポジションとして頻繁に登場する日野貞夫や

後輩で元々は『学校であった怖い話S』の女主人公だった倉田恵美を筆頭に、

100を超える人物が登場するぞ。

 

 

ゲーム自体は最初に書いた通り昔ながらのノベル形式。

相手から「怖い話」を聞く形式で話が進むので、

選択肢も質問に答えたり、会話に合いの手を入れるように進む。

話のバリエーションがとにかく多彩。

部活や学校の周りの施設の話から、夏休みに出かけた牧場や寒村の話まで。

「それもう学校関係なくない?」という話も少なくないぜ。

 

 

選択肢によって話の展開どころか、

舞台設定の根幹まで変化してしまうのが特徴で、

どういう話の転がり方をするのか全く読めない。

感動的なオチで終わったなーと思って違う選択肢を選ぶと、

それをひっくり返すような凄惨なオチになったり。

いきなり話のジャンルそのものが変わることも珍しくない。

主人公が死ぬエンディングも多彩で、昔ながらのサウンドノベル的な作り。

 

完全に悪ふざけみたいなオチも結構あって、

突然「こいつらの正体は吸血鬼!

だが俺はバチカンから来たエージェントなので安心しろ!」

みたいな話でエンディングになった時は唖然としたわ!

 

 

キャラ設定も変わるので、あるルートでは普通の学生だったキャラが、

別の選択肢ではサイコだったり人外だったり幽霊だったり宇宙人だったり……。

完全に別人としか思えない場合から、

「こいつはこの境遇ならこうなるかも」と納得できる時もある。

 

とある話ではメインだった人物が、別の話で脇役として登場することも多く、

話によって違った表情や人間関係が見れるのも面白いところ。

短編集だけど登場人物の出番はその話だけで終わらず、

様々な話に跨って登場して複雑に絡み合う……。

というのが『アパシー 鳴神学園七不思議』最大の特徴だ。

繰り返し遊んで、キャラのことを知れば知るほど味わい深さが増していく。

 

過去作だと「この人物が出てくるのはこの話だけ」と、

エピソード毎に完結した作りが基本だったので、比べると話の奥行き感が違うね。

ちゃんと「鳴神学園」という場所の「怖い話」になっているのだ。

 

 

今回、キャラデザは新たに倉馬奈未さんが担当している。

一新してるのでちょっとイメージが違うと感じた場面もあるが、

耽美系のホラーな雰囲気が実に良し!

キャラの目力の強さと、えぐいシーンの気持ち悪さが光る作風だ。

背景などでやや使い回しは目立ったが、

一枚絵の分量もエピソードの多さに負けてない。

 

 

キャラデザ一新で一番かわいくなったのは元木早苗かなぁ。

初代『学校であった怖い話』の怖すぎる正面顔と、

謎のポーズで口からエクトプラズム出すシーンの印象が強くて……。

余計にかわいく感じるぜ!

 

 

本作は大ボリュームの短編集なので俺のお気に入りエピソードをいくつか紹介。

「ゲーム実況怪談」は曰く付きのゲームを専門に遊んでいるゲーム実況者が、

「本物の呪いのゲーム」をプレイしてしまうエピソード。

徐々に滲み出てくるゲームの異様さが、

ニコニコ動画風の演出と構成に上手くハマっていて、怖さでは今回一番だった。

このエピソードだけ体験版として切り出して、

「ゲーム実況OK」の文言付きで無料配信すべきだと思ってる。

 

「パーフェクトじいさん」は野球部員でありながら、

甘い物大好きのパフェマニアでパフェ同好会まで作った男の話。

「とんでもなく不味いパフェを出すパーフェクトじいさんのお店」

という都市伝説を聞き、逆に気になり探し続けた彼はついに辿り着く。

パフェは1万円と800円の物があり、どちらを食べるかは選択肢次第。

「怪しげなお店で怪しげな商品を買う」的なホラー短編は珍しくないが、

切り口の独特さで引き込まれるエピソードだ。

 

「正しいフィギュアの作り方」は模型作りにのめり込み過ぎて、

常人には理解できない領域に到達してしまった本物の天才の話。

彼の手による創作物の恐ろしさと完成度が伝わる描写力が圧巻だ。

本題に入る前に荒井さんが語る、

「趣味」に関する精彩な語り口でまず引き込まれる。

これは造詣が深い人間じゃないと書けないシナリオだなぁ。

 

「蟲毒の地下室」は毒虫同士を殺し合わせ、

呪いに使える凄い1匹を作る「蟲毒」を人間でやってみた!というエピソードだ。

地下室に監禁された6名の男女と、それを監視する首謀者の学生。

デスゲーム的な構成だが、生々しい嫌さと醜さに溢れた展開は一味違うぜ。

 

「フラグ眼鏡」は死亡フラグを可視化出来るメガネを手に入れた女生徒が、

それを活用しようとして振り回されるエピソード。

話としても面白いんだけど、いつもおっかない岩下さんが、

割としっかり演劇部の部長をやってるところが新鮮で好き。

 

他にも好きなエピソードは沢山あったがこの辺で。

どういうルートで進めば見れるかは……君たちの目で確かめてくれ!

 

 

そして2022年の12月24日に無料アップデートで追加されたのが「殺人クラブ」。

設定は少し変わっているがスーパーファミコン版でもあったシナリオだ。

集まった語り部たちの正体は快楽殺人サークル「殺人クラブ」のメンバー。

ターゲットにされた主人公は、

タイムリミットが来ると爆発する首輪をつけられてしまう。

(スーパーファミコン版だと毒を飲まされる展開だった)

6人の語り部が持っている6本の鍵をすべて奪い、

首輪に差し込まないとカウントダウンは止まらない。

無事に生還することが出来るか!という長編シナリオだ。

 

 

移動する場所の選択肢を選んで校内を探索する構成で、

選択肢を選ぶ度に時間が減っていき、ゼロになったらそこで死亡。

語り部はこちらを殺そうとしてくるので、

遭遇する前にアイテムや情報を集めて対処しないとやはりバッドエンドだ。

 

 

大ボリュームを謳ってるけど、

スーパーファミコン版からそんな増量出来るシナリオだっけ?

と思って実際に遊んでみたら、学校のあちこちに色々な人がいて、

その人達から怖い話が聞ける構成でボリュームを増していた。

タイムリミットが来ると主人公が死ぬシナリオなのに力技過ぎるだろ!

 

思わず突っ込んでしまったけど、

本編を遊んだ後の追加シナリオとしては良い構成だ。

探索できる場所が物凄く多いので、

「あの話に出てきた場所か!」と聖地巡礼気分で巡れるし、

「あの話で出てきたあの人じゃん!」という登場人物にあちこちで出会える。

そしてその人の語り口で怖い話を聞けると。

本編に比べると1本1本の怖い話はかなり短いけど、

語り手が違うので新鮮に楽しめるね。

メインキャラ以外の脇役もしっかり描写してきた本作の集大成的なシナリオだ。

 

しかし探索すると鳴神学園の異常なデカさが分かりやすい……。

学校何個分あるんだよ!

 

 

大満足の内容だけど、難点はフローチャート機能が無い点。

ボリュームの多さと分岐条件の複雑さで実装出来ないのは分かるんだけど、

攻略本が無いと絶対見れないシナリオが多すぎるぜ!

完全攻略は目指さず、プレイヤーそれぞれの物語を楽しむものと割り切ろう。

……と言ってもエンディングリストと達成率表示があるので、

やっぱり気になっちゃう。

 

フローチャートが無い事を除けばシステム面は良好で、

選択肢がある場所で自動でオートセーブされるし、セーブファイルは100個作れる。

一度選んだ選択肢にはチェックマークが付くし、既読スキップも高速。

ボタン連打でうっかり選択肢を選ばないようにウェイトも掛かるぞ。

ここは抜かりない作りだね。

 

 

短編集なのに読んでも読んでも終わらない!

膨大な選択肢を孕んだバラエティ豊かな「怖い話」を聞けば聞くほどに、

作品世界は万華鏡のように変化しながら広がっていく。

恐怖を超えた先にある人間の感情と、

その感情を超えた先にある恐怖が、プレイヤーの心に爪痕を残す。

期待を裏切らない1本だった。これは唯一無二の作品だわ。

一新されたキャラデザとBGMも上手くハマってて、

リブート作として成功だと思うね。

 

遊ぶ時は攻略情報を無視して好きに遊んでもらって

「達成率こんだけしか増えてないの!?」と驚いてもらいたい!

大ボリュームの体験版から遊んでもよし!

 

さて、これで俺の『アパシー 鳴神学園七不思議』レビューは終わりだ。

次は何のゲームのレビューをしようかな……?