突如飛来した巨大怪獣の群れにより街が破壊され、緊急報道が鳴り響く。
パニックと化し逃げ惑う人々の波に逆って走る1人の少女。
道路の真ん中で足を止め、その太ももを手でなでると同時に光が走る。
虚空から現れ、凄まじい衝撃と共に地面に降り立ったのは巨大なロボットだ。
付近のビルの窓ガラスが割れ散る中、少女は光となってロボットに乗り込む。
歩道橋の上でその光景を見ていた少年は1人呟いた。
「本当に…始まったのか」
「君の言った通り」
「あの映画みたいに怪獣は現れて」
「こうして僕たちがロボットに乗って戦う」
「ずっと前から決まっていた事なんだ…」
画面いっぱいに映し出されるのは、燃え盛り煙が立ち上る鮮やかな街の遠景。
そしてコントローラーを握るプレイヤーには何も分からないまま、
果てしない決意を背負った少年少女たちの最終決戦が幕を開ける……。
宇宙一かっこいいタイトル画面と共に送る、前人未踏のSFジュブナイル。
『十三機兵防衛圏』はそんなシーンからスタートする。
この時点でもうゲームに引き込まれて仕方が無いのだが!そこからが情報の洪水!
魅力的なキャラ、息を呑む映像美、複雑怪奇かつ先が読めないシナリオで、
プレイヤーのあらゆる感情を揺さぶってくるぜ。
こうしてレビューを書いてる今も「いいゲームだったなぁ……」ってなってる。
2015年に発表され、一体いつ出るのかと待たされ続けた末についに発売された、
待たされただけのことはあるヴァニラウェア渾身の最新作だ。
ゲームは3部構成。
「冒頭の最終決戦に至るまでに何があったのか?」を描くADVパートの「追想編」。
「最終決戦」を戦い抜く戦闘パートである「崩壊編」。
そして徐々に増えていくデータベースの「究明編」がある。
基本的には「追想編」と「崩壊編」を同時進行で進め、
集まった情報を「究明編」で読み返してストーリーへの理解を深める形になるかな。
13人の登場人物の視点で送る『追想編』は、
「〇〇のシナリオを〇〇まで進める」「崩壊編を〇〇まで進める」などの縛りが
定期的に挟まるものの、基本的には好きな順番で進行可能。
気になるキャラを中心に進めてもいいし、バランスよく進めてもよし。
過去、現在、未来と様々な時代を舞台に、物語は最終決戦に向けて進んでいく。
選んだキャラによってシナリオのノリはガラリと変わる。
割とほのぼのしてる話があったり、宇宙人?と友情を育もうとする話があったり、
魔法少女モノみたいな話があったり、逃亡劇だったり、
ハードな展開と思いきや焼きそばパンが妙に存在感を放つ話だったり。
怒涛の勢いで繰り出される謎から謎に加えて、個性豊かな脇役たちも多数登場し、
13の物語は複雑に絡み合っていくぞ。
ヴァニラウェアのゲームと言えば2Dグラフィックの美麗さだが、
もう本当に今回は凄すぎる。誇張抜きにどこを切り取っても画になるレベルで、
新しい場所が出てくるたびに背景の細かい部分をしっかり見たくなるし、
しっかり見ると色んな発見がある作り込み。
こうしてスクリーンショットをまとめて見返していていても、
ただの綺麗な一枚絵にしか見えないのが恐ろしい……。
実際はこれがゲームとしてグリグリ動いてるわけよ。
光の表現の上手さはさすがと唸るしかなく、陽の光が差し込む教室や、
照明や看板の明かりが静かに人々の姿を照らし出す夜の繁華街は特に凄まじい。
キャラの動きに関しても尋常じゃないモーションの作り込みっぷり。
立ち方、歩き方、座り方、物の持ち方と、仕草一つに個性がハッキリ現れていて、
彼らが確かにここで生きているのが感じられる。
食パンを加えて「ちこくちこく~!」って走るシーンを、
ギャグじゃなく大真面目にやるゲームなんて何年ぶりに見ただろうか……!
登場キャラもカッコいい奴、可愛い奴、あざとい奴とみんな魅力的で、
それぞれの人間模様に笑わされたり泣かされたり燃えさせられたり。
そして13人の物語はすべて時系列がバラバラ。
いきなり意味深にもほどがあるシーンが始まったり、
後になってそのシーンの前の話が登場してやっと意味が分かったり。
遊んでいるこちらとしては脳をフル回転して話の繋がりを想像するわけだが、
それをたったのワンシーン、たったの一言でガンガンひっくり返してくる!
「何故このキャラがここにいる?!」
「このシーンはいつのどこの話なんだ?!」
「今……なんて言った?!」
悔しくなるくらいに製作者の手のひらで転がされっぱなし!
頭の中で物語が繋がった時の気持ち良さと、それがひっくり返される衝撃。
この二つを繰り返しながら、核心に迫っていく面白さがあまりに強烈。
それぞれが十分な長さである13人分のシナリオの時系列をシャッフルしつつ、
遊ぶプレイヤーが混乱しないようにしつつ、
それぞれを遊びやすいように10分~20分くらいの細かいエピソードに分割しつつ、
読み物として1エピソード毎にある程度は引きのあるオチにするという、
作ろうと考えた時点で狂気の構成。
それを見事に成立させてしまっているのが更に狂気。
シナリオは社長一人で描いたらしいが、そりゃ1人で書かないと作れない。
と、同時にどう考えても1人で書けるボリュームじゃないとも思ったわ……。
序盤は本当に何もかも分からないことだらけで、
ヘタな作りのゲームでこんなことをやったらすぐ投げ出してしまいそうだが、
そこをキャラの魅力と映像美、そして1エピソードのちょうどいい短さで引っ張り、
少しずつ物語の全貌らしきものが見えてくる頃には、もう止まらなくなる。
時系列は本当に複雑で、「過去の話」であることが分かっても、
「どのタイミングでの過去の話なのか?」が分からなかったりするから、
遊んでいてマジで混乱する!
そこでありがたいのがデータベースである「究明編」。
出て来た用語の解説が読めて、一度見たイベントを見直すことも出来る。
イベントを時系列順に整理して見直すことも可能だ。親切!
ここを読むことでグッと理解が深まる設定も多いし、
ちょっとした設定にもガッツリ説明があったりするから隅々まで目を通したくなるぜ。
物語にどっぷり浸かろう!
そして、戦闘パートとなるのが『崩壊編』。
こちらは描き込まれた本編に比べると割り切ったグラフィックで、
簡易なアイコンで表示された巨大ロボット「機兵」と、
怪獣が地図の上でドンパチやる表現になっている。
マップ中央にあるターミナルを守るのがルールで、
やってくる怪獣を全滅させればステージクリアだ。
性能の異なる13機の機兵から最大6機を選択して出撃出来るが、
出現する怪獣の種類に合わせた武装を選ばないと苦戦するし、
脳に負荷がかかるので同じキャラを連続して使い続けることは出来ない。
上手く考えながら編成しないといけないぞ。
ゲームとしては半リアルタイムのシミュレーション。
こちらが操作してない間も怪獣がどんどん動いていくが、
移動や武器の選択をしている時は時間が止まるので遊びやすいぜ
シミュレーションゲームとしてかなり爽快な作り。
四方から数十体と押し寄せてくる怪獣を、ロックオンミサイルでまとめて粉砕!
ロケット砲でまとめて爆破!セントリーガンを設置して蜂の巣!
堅いデカブツをブレードで両断!レールガンで貫通!
飛んでくるミサイルや空中の敵を電波妨害で叩き落とす!
各機兵の固有武装を活かしてやりたい放題だ!
大量のロックオンカーソル、大量に発射されるミサイル、
光となって弾ける大量の敵アイコン、大量のダメージ表示……!
遊んでいてたまらんわ!この感覚は『ガンパレードマーチ』を思い出す!
これはこの簡素な表現だからこその気持ち良さ。
後半は脳がシビれる物量で敵が押し寄せてくるのがまた熱い。PS4が処理落ちする!
マップ兵器で敵を倒す系のゲームが好きな人なら絶対ハマるぜ。
ゲームバランスは通常難易度でも大分甘めで、
強力な武器がいくつもあるし、成長要素もあるので割と無双状態。
物足りないなら難易度を上げることも出来るし、
逆にシミュレーションが苦手なら難易度を下げたり、
一度クリアしたステージを何度もプレイして鍛えることも可能となっているぞ。
簡素なビジュアルだが、「追想編」の方でド迫力で動く機兵と怪獣の姿、
そして登場人物たちの物語を体験した上で遊ぶことになり、
ボイスや細かい会話も色々とあるので、想像力の力でちゃんと見えてくるんだ……!
街に押し寄せる怪獣の群れと、それに果敢に立ち向かう13人の少年少女たちの姿が!
十三機兵防衛圏 体験版 | 公式PlayStation™Store 日本
構成している設定や展開自体はかなりベタなものばかりだが、
それをこの規模で、この表現力で、
これだけ魅力的に描き切られたら、それはもう新しい作品だ。
場面にこれ以上なく浸透したBGMの数々も素晴らしかった。
作り手が自分の血肉になっているであろう古典やお約束ネタを、
あらゆる感情と共に纏め上げ、忘れられない登場人物たちと共に、
「本作ならでは」の終着点に着地させた最高のSFジュブナイル。
ただ、発売してくれてありがとうと言いたい……!