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これは「生き様」を描いた物語だ!異色かつ白熱の将棋ADV『千里の棋譜~現代将棋ミステリー~』レビュー!【PS4/Switch/PC】

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千里の棋譜 ~現代将棋ミステリー~

 

『千里の棋譜~現代将棋ミステリー~』のレビュー行くぜ!

 


メーカー:ケムコ

機種:PS4/Switch/PC

ジャンル:現代将棋ミステリーADV

発売日:2020/02/27

価格(税込):3666円(パッケージ版)3000円(ダウンロード版)


 

『レイジングループ』を筆頭にここ数年躍進が著しいケムコが送る作品で、

現代の将棋界を舞台にしたミステリーADV。

元々はChild-Dreamから配信されていたスマホ作品。

それをベースにグラフィック、音楽、シナリオを大幅パワーアップさせ、

書き下ろしの新作シナリオである第二部も収録した1本だ。 

 

将棋を題材にしているがあくまでもADVなので、

プレイヤーが自分で将棋を打ったりは出来ない。

 

かなり突っ込み所はありつつも、

「将棋界」という特殊な環境での勝負を描いた熱い作品だった。

将棋知識が「一応駒の動かし方は分かるしハチワンダイバーは全巻読んだ!」

という程度の俺でも非常に引き込まれたぜ。ADV好きなら十分オススメ出来る!

 

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将棋ミステリー……と言っても殺人事件などが発生するわけではない。

第一部はAIと人間の対局によって揺れる将棋界と、

謎のキーワード「千里眼」に関連した事件。

続く第二部は謎多き幻の名人戦と、将棋界に隠された「神隠し」を追うストーリーだ。

あくまでも将棋と、それに命を燃やす人間たちのドラマが軸になっているゲーム。

 

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主人公は奨励会三段の棋士でプロを目指している長野圭と、

長野の幼馴染でフリー記者である一ノ瀬歩未の2人。

一ノ瀬歩未は将棋知識がゼロなので、

周りから色々と教えてもらいながら会話についていく。

この構成により、将棋詳しくない人間がゲームを遊んでも、

自然と入り込めるようになっているのだ。

 

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ただ、将棋連盟の会長に取材に行くシーンからゲームが始まるのに、

将棋知識ほぼゼロというのは蛮勇が過ぎるぞ歩未……!お前は走れメロスか。

 

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取材に行ってみると会長の別宅は荒らされていて、本人も気絶。

残されていたのは謎の詰め将棋。

時を同じくして、将棋界の大スポンサーを務めるサイバーテレビが将棋界に牙をむき、

最強AIと翔田名人による最終王者戦を提案するが、肝心の翔田名人が行方不明。

一連の事件に関連性はあるのか、そして名人は一体どこへ……?

 

こうして始まるのが第一章。複数の事件や謎が入り乱れながら進行していくのだ。

 

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ミステリアスかつ、実在棋士も多数登場するシナリオ構成。

ちょっとだけ登場するいかにもゲスト出演という棋士もいるんだが、

割とみんなゲーム全体を通してガッツリ絡んできて存在感ある。

というか、言われないと実在の棋士って分からないレベルでゲームに溶け込んでる。

 

特に、本作の監修も務めている高橋九段(真ん中)はめちゃくちゃ出番が多く、

アニメ好きなゆるいオジサンとして、良い意味で場の空気をぶち壊すポジション。

それでいて大御所としてキメる時はキメてくれるから美味しい役どころだ。

 

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香川愛生(左)も出番が多く、女流棋士としての立ち位置と、

さっぱりした性格で会話を活き活きと引っ張っていくのが印象的。

ビジュアルもゲーム中の女性キャラで一番の美人だ。

 

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なんと本人が原案・プロデュースを担当したおまけシナリオまで存在するぞ。

やりたい放題だな!

 

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本作独自のキャラだと、

翔田名人の風格が感じられる強キャラっぷりもいい味出してるんだが……。

俺のお気に入りキャラはトップ棋士の1人で、

主人公である長野の師匠、森方九段!

クールな風貌と気難しい性格、それでいて愛嬌が感じられる描写もある。

にじみ出る人間味が本当に魅力的で好きだね。

 

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ゲームとしては非常にオーソドックスな一本道のノベルADV。

選択肢の分岐はあるもののほとんど一発バッドエンドだ。

すぐに直前の選択肢を選び直すことで悩むことなく先へ進めるぜ。

おまけシナリオの謎解きだけは普通に難しかったりはするが……!

おのれ香川愛生女流三段!

 

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用語集があり、新しい用語が登場したらボタン一つでそのページに飛べる。

将棋用語や地名、歴史上の話など項目が多数。

で、ストーリー上で必要な知識に関しては説明が入るので、

深く知りたくなければ用語集を熟読しなくても問題はない。

こういうところでも将棋知らない人への配慮が行き届いているぜ。

 

 

用語集が「架空」「実在」と分類されているのは本作ならでは。

それっぽいけど架空の話なんだ!とか、

これ本当の歴史なんだーとか読んでいてかなり楽しい。

 

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そしておまけシナリオは香川愛生女流三段のせいで

「シャーロック・ホームズ」や「レストレード警部」が

用語集に含まれてしまっている……!そりゃ架空だよ!

 

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過去から現在へ連なる謎や事件と共に、「将棋界」という特異な場所と、

その中で命を削る人間たちの物語を描いていくゲーム。

将棋界の歴史を背景にした謎が次々に出て来ては解かれ、

意外なところに繋がっていく。

その道中で魅力的な登場人物たちがぶつかり合い、

そのドラマでもこちらをグイグイ引き込む。

強力な将棋AIや若き天才棋士の登場など、

現実の将棋界の動向にフィクションを織り交ぜたシナリオ展開が新鮮。

 

読んでいてダレないテンポの良さだし、盛り上がりが何度もやってくるのが圧巻だ。

「あまりに盛り上がるのでクライマックスかと思ったけど。

よく考えたらまだ事件が全然解決してなかった」ってなる。話作りが上手い……!

 

第一部は元がスマホゲームだった影響か、

ちょっと進むたびに状況をまとめるパートが挟まるんだが、

これも邪魔にならない程度だし話を整理するのにちょうど良いね。

 

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シナリオ上では対局シーンもあり、将棋中継を見ているような画面で進行。

本当の勝負のようにちゃんと最後まで1手ずつ指していくのが凄い細かさ。

周りのキャラが「あの指し手は!」「ここでこの戦法を?!」

とか分かりやすく解説しつつ驚いてくれるので、将棋を知らなくてもついて行ける。

 

そしてこのゲーム、どっちが勝つかマジで読めない!

対局する2人のそれまでの想いや決意を、

プロという存在の凄さを、なることの難しさを、

「勝負」の厳しさを描いた上での1戦だから緊張感がハンパ無い!

「話の流れならこっちが勝つけどこのゲームだから分からん……!」

と毎回本当にハラハラしてしまうし、だからこそ登場人物たちの行動に説得力がある。

 

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BGMは3以降の『逆転裁判』シリーズや

『グランディア』『新・光神話 パルテナの鏡』などを手掛けた岩垂徳行が担当しており、

イントロでこちらの心を掴んでくる名曲揃い!

 

対局シーンでの使い方が特に素晴らしく、

バリバリの燃え曲な「決戦の火蓋」をバックに激しい接戦を繰り広げて

勝負の流れを変える一手が刺された瞬間に、

緊張感溢れる「プロ棋士を目指す者たち」に、スッと切り替わる瞬間が、

もう本当にたまらない。めちゃくちゃ印象に残るぜ。

 

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気になるのはやはり第二部に入ってから増えてくる超展開。

ミステリー!?って言いたくなるレベルで、

「俺は将棋以前に、このゲームの事をまるで分かっていなかった!」

と度肝抜かれるレベルだったよ!凄い「成り」をしてきたな……。

 

しかし第二部では第一部で構成した人間関係を元に、

それぞれの進む道を描き切っているため、

対局シーンの熱さは最高潮だしそこはぶれてない。

一貫して、勝負の物語として誠実なシナリオだったと思う。

 

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あとはキャラクターのイラストと声優の質にかなりバラつきがあり、

遊んでるとちょっと気が散るところが難点かな……!

メインキャラに関しては声優含めて問題ないんだけどね。

  

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クリアまでは15~20時間くらい。

おまけシナリオの謎解きはやたら難易度が高いが、

そこを除けば普通に遊んでいて詰まる場所は無い作りだ。

 

勝負に賭ける登場人物たちの生き様を丁寧に描いたシナリオで、

やや行きすぎなところもあったが、ぶっ飛んだ展開もこれはこれで良いスパイス。

将棋知らない俺でも目が離せない熱量で、特に最後の対局が凄さまじい。

遊んだ後は魂が抜けたようになってしまった……。

 

ゲームを終えた後に、

実際の将棋について色々調べたくなったのも良いゲームである証拠。

「なるほどこれが元かー!」という感動もあったりで得難い体験だった。

 

「俺は将棋が分からない!だがADVの面白さは分かる!買え!」

と強くオススメしたい1本。大満足だ!