『アルタイル号の殺人』のレビュー行くぜ!
パブリッシャー:オレンジ
機種:Switch
ジャンル:SFクローズドミステリー
発売日:2024/4/11
価格:1300円
備考:PS4/PS5/Steam/iOS/Androidでも後日配信予定
宇宙船アルタイル号の中で起きた事件に挑むSFアドベンチャー。『探偵神宮寺三郎』シリーズを手掛け、その後も安定して完全新作を送り出してるオレンジの最新作だ。
と、毎回書いているが『探偵神宮寺三郎』の新作はいつなんですかアークシステムワークスさん!
オレンジの新作ADVと言えば、毎回3~4時間くらいで楽しめて難易度も低いライトな作品。今回もそこは同じだが、宇宙船という閉鎖空間に「渇望」をテーマにしたシナリオ、ありがちと思わせて一捻りあるギミックと、短編として良くまとまっていて満足度は高かったぜ!
人類最先端の研究基地「シオン・フロンティア」で謎の爆発事故が発生してから1年。
貴重なデータが詰まった残骸を回収しに来た宇宙船アルタイル号は、そこで天才宇宙工学者シオン・ミラーの遺体が入ったカプセルと、それを守るアンドロイド・フレムを発見する。更に謎多き地球外生命体・ホープも回収して地球への帰路につくが、船内で不可解な事件が発生。
アルタイル号のマスターAIはフレムと共に事件調査に挑む……というストーリーだ。
過去のオレンジ作品は近未来が舞台だったり、ロマンス要素が強かったりしたが、今回は遥か未来、閉鎖された宇宙船を舞台にした純然たるSFミステリーとなっているぞ。
フレムはアンドロイドだけど自我が存在するタイプだ。しかし記憶の一部を失っていて動作にも不具合が発生している。マスターAIがその補助をしながら指示を出し、船内の警備と調査をしていく。
フレムは基本的な知識も一部欠落しているし、ビビると「あわわわ……」とか「ひぇ……」とか言う。人間とAIのバディ作品ではなく、宇宙船のマスターAIとポンコツアンドロイドのバディ作品ってわけね。お互いに影響を受けて成長しながら進んでいく王道の良さがある。
アルタイル号の乗組員は6名。
3人が国際宇宙開拓機関のメンバーで、残り3人は宇宙開発省のスタッフ。この二つの組織間では回収した残骸に関する権利問題が発生しているし、カプセルに入っていた博士の死体にも不審な点があるし、謎の地球外生命体ホープは謎がいっぱい!
そこで発生する凄惨な事件。人の仕業かホープの仕業か。状況はきな臭いが、こんな事件が起こるほどではないよな?と、調査を進めていくうちに状況は更に深刻になっていき、複雑な人間関係も徐々に明らかになっていく。
アルタイル号は無重力なので移動にはリフトを使うが、居住区はリング状の構造になっているので重力が発生する、宇宙船という環境が事件の詳細に綿密に関わってくるなど、SFモノらしい雰囲気。
登場キャラ達もしっかり立っていて、「ワーオ!」が口癖でテンション高いドクター・エリックは面白いし、子供らしいところがあるケントとマリナの兄妹は微笑ましく、エンジニアのジョージは口調こそ荒っぽいが頼れるおっさんだ。
ゲームとしては一本道の作り。難易度は低く、現場調査やマップ移動もほぼ正解しか選べないので、悩むところはない。推理パートは少し引っかかるかもしれないが、間違えてもペナルティは無し。選択肢によるバッドエンドもあるが箇所が少ないしほぼオマケだ。本格的な推理ゲームを望む人には物足りないが、気軽にサクサクプレイできる。
個人的に本作でとても気に入っているのが、スキンシップとしてフレムに指示できる「触る」コマンド。状況に応じて乗組員や現場に触れる。
遠隔操作でアンドロイドに人間を触らせるの、ちょっとえっちじゃないか?
と最初は思ったが、何度もやると恥ずかしがられたり、シリアスなシーンでは止められたり、身体検査と認識されて態度を固くされたり、凄惨なシーンの後では安心してくれたり。原初のコミュニケーション手段として効果的に機能していて、登場キャラの内面を掘り下げている。
「触る」コマンドが重要な場面はほぼ無く、選んだ時のテキストも一言二言程度だが、プレイヤーが干渉できる要素として面白い。
オスカー艦長に何度も触ってフレムが「少しは親しくなることができたでしょうか?」って聞いたら「またか」「私は手強いぞ。せいぜい頑張りたまえ。」なんて返してくるのが特に印象的。
オスカー艦長、フレムに対して当たりが強いちょっと嫌なヤツなんだけど、こういうところで違う表情が見れるのいい。無重力空間でもコーヒーにこだわる姿がクローズアップされたり、キャラとしても好きだな。
まあ人間キャラで一番魅力的なのサラさんなんだけどな!
死んだ博士の共同研究者で冷静沈着な天才キャラなんだけど、中盤から人間臭さが濃くなってきて一気にキャラとして奥行きが出るのだ。奥行き出すぎだろ。
最初にも書いた通り3~4時間でクリアできる構成。
オレンジの新作は開発規模が違う『イヌワシ』を除くと、面白いけど掘り下げやボリュームが物足りないことが多かったが、本作は閉鎖環境での王道SFミステリー&エンタメを貫いたからこその密度で満足度高い。
メカ周りのチープさや、設定面のゆるさはあるが、生物が持つ「渇望」に収束する終わり方が綺麗。オレンジの短編では一番のお気に入りになった。オススメです!