絶対SIMPLE主義

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小説「ウルトラマンメビウス アンデレスホリゾント」感想!

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2009年に出版された小説ウルトラマンメビウス アンデレスホリゾントの感想行くぜ!

ウルトラマンメビウス: アンデレスホリゾント (光文社文庫)
朱川 湊人
光文社 (2013-12-05)
売り上げランキング: 96,000

去年の12月に文庫版が出たのでやっておこうと思ったのだ。

本当は1月にやるつもりだったんだけど遅れた。

作者は朱川湊人。

2006~2007年にかけてTV放送された「ウルトラマンメビウス」の脚本のうち

「怪獣遣いの遺産」「無敵のママ」「ひとりの楽園」の3本を直木賞作家である朱川湊人が手掛けたことがあり、

その3エピソードを下敷きに自ら小説化したものがこのアンデレスホリゾントだ。

「魔杖の警告」「怪獣遣いの遺産」「無敵のママ」「ひとりの楽園」「幸福の王子」の5話構成。

主人公は小説オリジナルキャラである新人のカナタ隊員。

大幅に肉付けされたTV版のノベライズ3話に小説オリジナルエピソード2話を加え、

カナタ隊員の成長物語として再構成されている。

一応、テレビ本編とは違うパラレルワールドという設定。

カナタ隊員が新人として防衛チームのGUYSに配属されるシーンから始まるんだけど、

このカナタ隊員がメビウス本編にはいなかったタイプの実に嫌な性格のヤツで、

GUYSのメンバーを素人の集まりとボロクソに言うしウルトラマンも全然信用してない。

カナタ隊員がGUYSメンバーのゆるい勤務態度に呆れるシーンや、

防衛隊選科の人間からもエリートが配属されるまでの捨て駒として見られているシーンなど

良くも悪くも明るく熱血なノリだった本編を見ているとなかなか新鮮な視点だ。

ガンウインガーのファイアパターンを暴走族っぽいとか毒づくシーンは思わず苦笑い。

この最初は斜に構えていたカナタ隊員が、

実戦でのGUYSメンバーの超プロフェッショナルっぷりに驚いて認識を改めていくところが、

メビウス本編のファンとしてはお約束ながらかなり痛快なところですね。

「初代ウルトラマン~80までの作品はすべて地続きであり、

メビウスは80の最終回から25年間怪獣や宇宙人が出現しなかった世界である」

というのがウルトラマンメビウスTV本編の設定なんだけど、

小説としてここをしっかり生かしているのが本作の本当に素晴らしい点。

小説独自の設定を交えて「1人の人間の視点から見たウルトラマンメビウスの世界」をしっかり描いている。

例えば序盤にカナタ隊員がウルトラマンを安易に人類の味方と呼んでいいのか、

異星人の考えを人間の基準で図ることは危険だ、と考えるシーン。

ここで生命の概念を理解しない異星人であるバルタン星人や

文明を滅ぼすことそのものが目的という価値観を持ったザラブ星人が過去にやってきていて、

それをカナタ隊員も選科で学んでいるという背景が描かれたりと、

こういう「初代マン~80を経た世界なんだな!」と思える描写がいたるところに詰め込まれてシビれる。

TV版は中盤くらいで防衛チームにウルトラマンメビウスの正体がバレるという

シリーズ通してかなり異色の構成だったけど、

小説版はカナタ隊員が配属された時点で既にバレており、

カナタ隊員も早い段階でメビウスに変身してるのが隊員の1人であるミライくんであることを知る。

このミライくんがウルトラマンであることを知って距離を取ったり不信感を抱くカナタ隊員と、

いつもの天然っぽいノリでゆるく接するミライくんのやり取りがまたいいんだよなあ。

ボケとツッコミみたいになってるシーンもあり、

ウルトラマンに対する不信感を直接ぶつけるシリアスなシーンもあり。どちらも味わい深い。

ミライくんの「ミライくんはこういうこと言いそう!やりそう!」っていうボケっぷりにも大笑いした。

公園に来たメロンパンの移動販売車を見て興味津々で

「メロンパン買おうよ……いくらだろう。七千円で買えるかな?」じゃねーよ!

ミライくんはこういうこと言う!

本作はTV版のノベライズ3話と小説オリジナル2話の5話構成と書いたが、

TV版のノベライズである3話に関しても展開そのものがまったく異なっていたり、

展開は近いけど歴代ウルトラシリーズから色々な人物や怪獣やメカが登場するようになっていたりと、

TV版とは全然違う印象かつ、TV版を見ているとより楽しめる内容になっている。

帰ってきたウルトラマンで非常に強いインパクトを残したエピソードである

「怪獣遣いの少年」の続編ということで放送前から話題になったものの、

強引な展開で突っ込み所も多かった「怪獣遣いの遺産」に関しても、

メイツ星人ビオとカナタ隊員の個人間のやり取りを中心にした話になっていて、

お互いの過去に関する共通点を踏まえての会話など、非常に読み応えのある話に仕上がっている。

メビウス本編だと出現した怪獣を「ドキュメント○○」という

過去の防衛チームのデータから検索して対処していたが、

小説オリジナルとして「ドキュメント・フォビドゥン」なるアーカイブが登場。

過去の防衛チームの暗部になっている怪獣や宇宙人はここに収録されていて

一部の人間しかアクセスが出来ない。

メイツ星人のデータもここに収録されているという設定だ。

その流れで元人間だったけど怪獣として処理されたあの「ジャミラ」の話も出てきたりと、

メビウス本編では一切無かった黒い設定も。

TV版ラストの「穴を楽しそうに掘ってたっておかしくね?!」

って言いたくなるオチにも直球でフォローが入ってて余韻を残したラストになってる。

反省として小説として書く際にこういう展開にしたのか、

最初からこういうことが言いたかったのかは読み手である俺には分からない……。

とにかく「朱川湊人はウルトラマン好き過ぎだろ!」って思ったね。

過去の防衛チームのメカがどんどん再登場したり、

過去の怪獣や宇宙人のエピソードがどんどん出てきたり。

それをしっかり生かした展開にしてあったりとウルトラマン大好きじゃないと書けないよこれ。

初代ウルトラマンのイデ隊員の話を交えながら「最初のメテオール」に関する議論をして

その最後に出てくるアレが活躍する展開には「おおっ!」ってなった。

小ネタの多さも物凄くてちょっとだけ名前が出てくる人物も

ほとんどが過去のウルトラシリーズに登場した人物だったり

ウルトラQも「万城目淳によって書かれたノンフィクションノベル」という設定で組み込まれていたりと

ギッチギチに詰め込んである。

まあ、建物の名前が「メゾン・ド・リトラニア」だの「アランカ」だの

「ジュラン・ジュラン江戸川店」になってるところまで行くと、

(すべてウルトラQの怪獣や用語が元ネタ)

ちょっとやり過ぎで二次創作っぽさが強すぎる感はあるんだけど、

メビウスの世界は初代ウルトラマン~80から地続きになってる世界観で、

ということは怪獣や宇宙人に数百回に襲われている世界なわけで。

「むしろ二次創作っぽさが強すぎるくらい小ネタが豊富な世界じゃないと不自然!」

という解釈を俺はしたいね。

それでもGUYS USAへの皮肉はやり過ぎだと思いますけども!

ゴジラファイナルウォーズじゃないんだから!

古いウルトラマン関連の書籍だと怪獣や宇宙人の写真の背景が、

なんかどっかの倉庫だったり原っぱだったりと適当なものがあったりしたんだけど、

本作はそこにも突っ込みと説明を入れてたりして大笑いした。

小ネタ以外だとウルトラ兄弟の映像資料を散々見ていたカナタ隊員が

実際に目の前に現れたウルトラマンメビウスを見て

映像と見るのとはまったく違う巨大感に驚くところなんかは特に好きなシーンですね。

カナタ隊員がGUYSメンバーやウルトラマンと触れ合いながら

少しずつ成長していく姿が丁寧に綴られていて

最終話はカナタ隊員の成長と過去に対する決着としても

そしてウルトラシリーズの幅を広げる1本としても素晴らしいものだった。

カナタ隊員が新人なのである程度説明があるとはいえ、

メビウス本編を見ていないと入り辛い内容ではあるんだが、

ウルトラマンが大好きな作家が、

初代マン~80までと地続きになっているメビウスの世界観を生かし、

ウルトラマンへの愛を惜しみなく注ぎ込んだ内容。

メビウス本編しかウルトラシリーズを見ていないファンはもちろん、

ウルトラマンが好きならば好きなほど楽しめる1冊になっている。

巻末には作者コメント付きで登場した怪獣とメカの設定画もあったりで必見。

読み終えた後に寂しくなってしまうほど面白かった。

オススメだぜ。