今回レビューするゲームの名は秘密結社……Q!
パブリッシャー:ライトスタッフ
機種:PS
ジャンル:悪役シミュレーションゲーム
発売日:1998/7/30
価格:5800円
悪の秘密結社を題材にした特撮風のシミュレーションゲーム。悪の幹部となって正義のヒーローと戦いながら、恐怖の作戦を実行していく内容になっているぞ。「この世に悪が栄えた試し無し」などという戯言を消し飛ばしてやる!
販売・開発はライトスタッフ。
PCエンジンやPCで多数ゲームを発売していたメーカーで、代表作は『アルナムの牙』『フラッシュハイダース』『アルシャーク』辺りかな。本作を最後に倒産してしまったので、恐らく正義のヒーローとの戦いに敗れたと思われる。
発売された1998年は1997年1月に発売された『ファイナルファンタジーVII』のレジェンドオブレジェンド爆裂ヒットにより初代PSが絶好調で、大手から中小まで様々なメーカーが多種多様なゲームを発売していた時期。『鉄拳3』『ダブルキャスト』『パラサイト・イブ』『ゼノギアス』『武蔵伝』『エアガイツ』に、あのSIMPLE1500シリーズも1998年発売。
っていうかスクウェアが異常過ぎるなこの時期は……!
特撮的には『ウルトラマンガイア』『聖獣戦隊ギンガマン』が放送中。仮面ライダーは空白期間で2年後に『仮面ライダークウガ』が放送されるタイミングだ。
非常に知名度が低い作品で「初代PSのマイナーなゲームの話をしよう」なんて場でも名前が出そうにない立ち位置だが、チープながら製作スタッフのこだわりとセンスあふれる内容。しょうもないパロネタと、普通にシリアスなシーンの温度差がたまらない1本だぜ!
特撮パロゲーで主題歌を軍歌風に仕上げてくるセンス渋い。明らかにスタッフが歌ってて味があるな! #秘密結社Q pic.twitter.com/qXktehdjE4
— ゲームブロガー双葉ラー油 (@daikai6) January 24, 2025
全13話構成でちゃんと毎話にOPとEDがある特撮番組仕様。明らかにスタッフが歌ってる主題歌が軍歌風なのが渋い。古い特撮の主題歌って軍歌の流れあったからね。映像はルパン三世のパロとかかなりごった煮だが!
- 悪の組織の幹部となり、総統の指令を実行するストーリー!
- 100人中100人がスパロボだこれ!となるSLGパート。でも独自性はある!
- 溢れる小ネタとこだわり!ヒーロー登場シーンにゲーム内広告まで!
- 意外とシリアス!?ギャグとの温度差激しい読ませるストーリー!
- 今から遊べとは言い辛いが、このゲームの事は残しておきたい!
悪の組織の幹部となり、総統の指令を実行するストーリー!
とある目的のために巷を騒がす悪の組織『秘密結社Q』の幹部となった男レイジが主人公。
正義のヒーローと戦いながら、幼稚園バスのジャックやテレビ局への破壊工作、戦闘員確保のための刑務所襲撃、ダムへの薬物の投与といった恐怖の作戦を実行していくのだ!
1話のタイトルは「初任務!!最初はやっぱり幼稚園バス!?」
総統Qが悪の組織にとってバスジャックがどれほど大事か語ったり、政府要人の子供が通う幼稚園なので人質として使える、という説明で一瞬納得させた後に、作戦名が「バスジャッカー電撃隊」でズッコけさせたり。いきなりしょうもないスタートだ!
主人公のレイジくん、悪の組織の幹部なのに感性がまともなので、化石みたいな特撮パロに困惑するし基本的にマジレスばかりする。
100人中100人がスパロボだこれ!となるSLGパート。でも独自性はある!
この流れで本編が始まったらまんま『スーパーロボット大戦』で笑ってしまった。スパロボじゃねーか!
スパロボだと味方アイコンが青、敵アイコンが赤だったが、本作は悪の組織が主役なので味方が赤、敵が青になっているぞ。完全にスパロボ遊んだ人間しか分からない構図!
特撮ゲーなので総統が「魔Q空間に引きずり込め!!!」とか言い出したりする。
これにはレイジも困惑。お前よくそれで幹部に上り詰められたな!
ゲームとしてはターン制のオーソドックスな戦略シミュで、地形効果の概念なども大体スパロボそのまんま。ただし、精神コマンドの類は無いし、レベルアップや装備の概念はあるが次のステージには引き継がれない。ユニットが死んでも次のステージに影響ない。
すべてのステージを決められた戦力で挑む、詰め将棋的な構成になっているぞ。
戦う相手は「機動刑事ライオット」などのヒーローと治安維持部隊。こちらの戦力は毎回新しく登場する怪人とザコ戦闘員となる。
ヒーローはめちゃくちゃ強く、まともに殴り合いが出来るのは怪人とレイジのみ。そしてレイジがやられたらゲームオーバーなので、怪人を先頭に出すのが基本。
ステージのクリア条件が敵の全滅ではなく、ヒーローとの戦いに一定ターン耐えたり、特定の建物への移動、特定のユニット破壊など、変則的なものが多いのも特徴だ。
戦闘員は使い捨ての回復アイテムを持っているので、戦闘員で強力な怪人を援護しながらヒーローと戦ったり、作戦を実行するために多数の戦闘員をマップのあちこちに移動させたりと、実に「悪の組織の視点で遊ぶゲーム」らしい空気感が出てるぞ。意外と独自性あって面白いじゃん!
初代PSのシミュレーションゲームは今遊ぶと、処理の重さやロードの長さで遊ぶのがしんどいソフトが多かったりするが、本作は2Dスパロボまんまなので軽快。戦闘シーンの短縮もあるので、今遊んでも結構サクサクだ。身の丈に合った開発規模が功を奏した!
ただ、終盤は小細工抜きの総力戦が多くなり、そうなると強いユニットを前に出して、敵のバカみたいに高い体力をチマチマ削るだけの作業になる。マップ兵器持ちの敵ユニットが登場するのもしんどい。クライマックスに近づくほど、ゲームとしてはどんどん面白くなくなるのは残念な点だ……。
BGMの種類が少なく、序盤から終盤まで同じマップBGMを聞くことになるのも盛り上がりに欠けたね。
とはいえ、こだわる部分はこだわってるし、小ネタの多さで遊んでいて飽きさせない
溢れる小ネタとこだわり!ヒーロー登場シーンにゲーム内広告まで!
ヒーロー登場!ボイスもSEも無く、当時基準でもショボいポリゴンだけど熱意は感じる……!#秘密結社Q pic.twitter.com/CTKw1QDaSN
— ゲームブロガー双葉ラー油 (@daikai6) February 1, 2025
最初のステージで見れるヒーロー登場デモは見た目こそヘロヘロだけど、カメラワークやモーションなどはかなりしっかり作ってある。戦闘デモもこのノリで、チープながら細かい技のモーション1個1個が個別。
登場ユニットに出身と弱点、装備アイテムのテキストが全部設定されてるのも細かすぎる。戦闘員が5人いたら5人全部違うからすごいぞ!見れば見るほど何かしらのネタがある。楽しんで作ってたんだろうなぁ。
ゲーム中に怪しげな広告が表示されるのも笑える。『ゲッP-X』でもやってるがこっちの方が先だ。
今遊ぶと「おお……」となったのがテレビ局破壊ステージ。テレビ局を破壊した後に「お面ライダー」の復活を望むセリフがあり、この後に「原作者が無くなったから無理か。ご冥福をお祈りします……」と続く。
このゲームが発売される3か月前に石ノ森章太郎が亡くなっており、2年後に仮面ライダークウガが始まる!「歴史」としか言いようがないテキスト。まさかライダー復活どころからそこから切れ目なく2025年まで続いて、鈴木福演じる石ノ森章太郎がライダーと戦隊のお祭り映画に登場するとはね!
意外とシリアス!?ギャグとの温度差激しい読ませるストーリー!
シナリオも結構読ませる内容で、テロ組織化した自然保護団体が秘密組織Qの前身であり、その代表が総統の正体である……という、まだオウム真理教の影響が強い当時の世相を感じる描写があり、これを3話の段階でレイジが知るので引き込まれる。
総統の正体、なぜ秘密結社Qは荒唐無稽な東京侵略作戦を進めるのか、次から次に現れるヒーローたちの背後にあるものは、そしてすべてを知ったレイジの選択は!
意外にもシリアス色が強いシナリオ。
レイジのバカだけど根っこの優しさを捨てられない描写がしっかりしていて、遊んでいるとなんだかんだ好きになってくる。だからこそ終盤の展開は燃えるし泣ける。
レイジとしょうもない漫才やってる秘書のシャドーローズに、毎週登場する新たな怪人たちにと、善も悪もバチバチにキャラが立っていて会話イベントが楽しいし、ヒーロー側のパワーアップイベントも普通に盛り上がるのが不覚。俺は悪の組織の幹部だというのに!
ヒーローである機動刑事ライオットに対抗するために、クリムゾンという最強の改造人間を出撃させるが、その正体はライオットの親友。それを知ったライオットは戦えなくなる!とかお約束の展開を照れ無くやってるのも良い。
クリムゾンの野郎も私情を優先してよく作戦を無視するので、悪の組織シミュレーションとしての味に繋がってる。「ええい!命令を無視するのかクリムゾン!」「ふっ、俺はライオットを倒したいだけだ」みたいな。この2人のストーリーもちゃんとしてるんだよなぁ。
ゲームを進めたら「新世紀美少女戦隊モモヴァルス」なる、セーラームーンなのかスーパー戦隊なのかよく分からん3人組も出てくる!掛け声は「レッツ!モモヴァイン!」とコンバトラーVなのでごった煮!
「新世紀」は当然エヴァかな……と思ったが、この時期の戦隊は「スーパー戦隊」ではなく、「超世紀全戦隊」という呼称も使ってた時期なのでそっちも入ってるか。
各話のアバンでは登場キャラの心情や過去を叙情感たっぷりのナレーションで語り、最後に「その名は秘密結社……Q!」で締めくくる構成になっており、これの貫き方も見事。ギャグだったり悲壮感だったり真相だったり、展開によって印象がまるで違う。3つあるエンディングのシメはどれも痺れたなぁ。
このゲームで一番シリアスで一番盛り上がるシーンに、ウルトラセブンの「西の空に明けの明星が輝く頃~」のくだりまんま入れちゃうところも嫌いじゃない。
劇中のイラストは全体的にかなりチープなんだけど、枚数が多いから気合は感じるし、このダブルピースで大喜びするレイジくんのイラスト大好きだぜ。
今から遊べとは言い辛いが、このゲームの事は残しておきたい!
クリアまでは10時間以上。
分岐は12話クリア後選択肢と作戦目標失敗で最終話が3つに分岐するだけだった。
ただのバカゲーと思いきや「特撮パロゲー」として真面目に作り込んである1本で、低予算ながらスタッフの情熱は確かに伝わってきた。エンディングの一つで「全てを望むのが欲望ならば、平和を望むのも欲望なのである」なんて語りが入るのも良い。スタッフロールを見ると雑誌の『ザ・プレイステーション』で怪人募集企画などもやっていたようだ。
もう移植されることは無いだろうし、中古でも手に入り辛くプレミア化してる。遊んでくれとは言えないが、埋もれるには惜しい幻の特撮パロゲーとして、ここにレビューを書いておくぜ。
この名前だけは記憶してもらいたい。その名は……秘密結社Q!