『最悪なる災厄人間に捧ぐ』のレビュー行くぜ!
略称は『さささぐ』らしいぞ。
メーカー:ケムコ
機種:PS4/Switch用ソフト
ジャンル:限りなく透明で残酷な“災厄世界系”ノベルアドベンチャー
発売日:2018/8/23(PS4) 2018/9/20 (Switch)
価格:パッケージ版3333円(税抜) ダウンロード版2778円(税抜)
備考:パッケージ版はPS4版のみ。
最近パッケージソフトを出せるようになってきて嬉しいケムコの最新ADVだ!
今回は開発体制がこれまでと異なり、
シナリオ・イラスト共にウォーターフェニックスという外部のメーカーが担当。
『レイジングループ』のamphibian氏は監修として関わっているぞ。
内容はたまに選択肢が挟まるオーソドックスなノベルADVで、
ストーリーは理不尽極まりない“災厄”に主人公とヒロインが挑んでいくもの。
前向きで心温まる描写と、心が折れそうなくらいにキツい描写が
波状攻撃で押し寄せるサウナと水風呂のような構成が特徴だ。
いや、サウナと水風呂というか熱湯と氷水くらいの温度差かな……。
これはパリーンと割れますね!心が!
主人公の豹馬は「生き物の姿と声が聞こえない」という病気になった小学生の男の子。
豹馬にとっては自分以外のすべてが透明人間の世界で生きていることになるので、
常人では想像もつかない孤独を味わうことになる。
そこで出会ったのがクロという女の子。
豹馬からも見えるし、普通に会話もできる。
しかし逆にクロは「豹馬以外の人間からは認識されない」という存在だ。
豹馬はクロ以外が見えないし、クロは豹馬以外からは見てもらえない。
お互いに、相手がいなければ人間として生きていけないのだ。
物語は豹馬がクロにソフトクリームを買ってあげるシーンから始まり、
そこからは病気になる前と同じ学校生活を送るために、
クロと一緒に学校に行き、
同級生が何を言っているかクロを介して教えてもらったり、
他人にぶつからないようにクロに合図して貰ったりと、
あまりにも過酷な二人三脚が幕を開ける。
果たして2人は生きていくことが出来るのか!?
かと思ったらいきなりクロが5人に増えた?!
くっ、落ち着け……!高速移動で5人に見せているだけだ……ッ!違う?!
いきなり5つの並行世界が繋がり、そこから別のクロがやってくるという急展開。
これ映画でガケの上にすべてのクロが集合して助けに来るパターンだわ。
みんな同じクロかと思いきや、話を聞いてみると
最初にクロに買ってあげた変わり種ソフトクリームの味だけが違い、
好きな食べ物もそれに準じたものになっていることが判明。
ややこしいので以後、5つの世界は
「とうふ世界」「キナコ世界」「みそ世界」「納豆世界」「豆乳世界」
と呼ばれることになる。
ラー油味もあれば嬉しかったな。
まあ、大豆製品で統一してあるからラー油の入る隙間は無いんだが……。
クロだけは謎の扉で自由に並行世界を行き来することが出来るので、
他の世界のクロに手伝ってもらうことで豹馬の生活はスムーズになるし、
みんな「クロ」だと名前を呼ぶときに混乱するということで、
存在する世界にちなんだ名前も付けられる。
そしてゲームが進んで時間が経過していくと、
最初は見分けが付かなかった5つのクロにそれぞれ個性が生まれ、
どんどんと別人のような性格に成長していく。
「豆腐好きのクロ」は「ふー」。
正統派ヒロイン的な優しく献身的な性格。
「キナコ好きのクロ」は「キナ」。
みんなのまとめ役で頭も良い。真面目な性格。
「みそ好きのクロ」は「みー」。
スポーツ大好きですぐに体を動かしたがる性格。
「納豆好きなクロ」は「なつ」。
自由気ままで遊ぶのが大好きな性格。
「豆乳好きなクロ」は「にゅー」
いつも寝てばかりいる癒し系の性格。
この個性豊かな5人のクロと協力したり、時には喧嘩したりしながら
賑やかに毎日を過ごしていくことになる。
5人ともクロ本人。だけど別のクロなので性格は違う。でも大本は同じクロ。
劇中では話し合いやぶつかり合いが何度も描かれることになるが、
その度にクロは自分自身と深く向き合うことにもなるのだ。
キャラとして好きなのは「みー」なんだが、
「なつ」がやっぱ色々とずるいよなぁ……。
どの世界のクロも豹馬のことが大好きである、
というところは絶対に揺るがないので、
大好きな豹馬のために五者五様に頑張る可愛い姿を堪能できる。
クロの声優はすべて小鳥遊ゆめさんが担当しているが、
性格による演じ分けは圧巻だぜ。
また、5つの並行世界以外からも色々な「クロ」がやってくることがあり、
これがストーリーの根幹に大きく関わってくる。
多くは語らないが個人的には「甘ロリのクロ」が好き。
ちなみに5つの世界にはクロだけでなくそれぞれの豹馬も存在しているが、
そちらはほとんど同じ性格になっているぞ。
さすがに豹馬の性格まで全部違うとややこし過ぎるからな……!
豪華なムービーやキャラ絵がアニメしまくったりはしないものの、
立ち絵と背景の細かいバリエーションはかなり多く、
見た目でもしっかり楽しませてくれる。
喜んだ時に小躍りするクロとか思わず笑っちゃう。
語れる範囲で俺が非常に気に入っているのは最初に水族館に訪れるシーン。
予備知識なしに見たらギャグにしか見えないあのビジュアルは、
このゲームの設定だからこそ生まれた美しいシーンだったと思う。
他にも要所で「おおっ!?」と思うような演出が挟まるのが上手い。
いつかこのゲームがセールになったら使う予定の画像。
遊んでいて面白いのが世界を支配するルールの数々。
例えば、クロは物を持つことは出来るが、
別の並行世界に行くとすり抜けて持てなくなるし、
その世界の豹馬から姿は見えても声は聞こえない。
こういったルールに基いた描写が散りばめられていて
それを活かした展開が用意されている。
そもそも豹馬とクロは何故こうなってしまったのか。
自分自身の抱える闇や問題とも向き合い、原因を調べていくたびに、
新しいルールや数々の謎、真実が浮かび上がっていく。
そして訪れる「最悪なる災厄人間」という言葉を
嫌と言うほど噛みしめることになる怒涛の展開!
本当にきつい展開と描写が連発されるが、
突破口になりそうな新しい知識も少しずつ集まってくるため、
物語の続きが気になって止まらなくなる勢いがあるぜ。
監修が入っているせいか、
開発は違っていてもここは結構ケムコADVらしいところだと思うね。
ただ、進むにつれてストーリーは盛り上がるものの、
状況を悪くするためだけのご都合主義的な展開が
かなり目立ってくるのは気になった点。
それが通るならなんでもありじゃん!と思ってしまうところもあり、
ちょっと興ざめしてしまうところではあったな。
クリアまでに数十時間の大ボリュームだが、そのすべてを
主人公とヒロインである「豹馬とクロ」を描き切ることに費やしている1本。
ストーリーもほぼこの2人(と言っていいのか?!)の会話だけで進むので、
かなりクセが強い作品ではあるが、物語に引き込む力が圧巻。
今回もぶっ通しでずっと遊び続けてしまったぜ。
自分がいて、他人がいて、希望があって、絶望があって、そして生きようとする。
どこまでも“人間”の物語だった。