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眩しく描かれる、世界の終わりと青春の終わり『A Space For The Unbound 心に咲く花』レビュー!【PS4/PS5/Switch/Xbox/PC】

 

A Space for the Unbound 心に咲く花 | Chorus Worldwide

 

A Space for the Unbound on Steam

 

『A Space For The Unbound 心に咲く花』のレビュー行くぜ!

 


パブリッシャー:コーラス・ワールドワイド/Toge Productions

機種:PS4/PS5/Switch/Xbox/PC

ジャンル:心に花を咲かせるアドベンチャーゲーム

発売日:2023/2/2

価格(税込):2300~2860円(ダウンロード版)4378円(パッケージ版)

備考:パッケージ版はPS5とSwitchのみ


 

インドネシアの開発スタジオであるMojiken Studioが手掛けた作品。

90年代のインドネシアの田舎町を舞台にしたアドベンチャーゲームだ。

不思議な力を手に入れた2人の高校生を中心に、

街に眠る秘密と世界の終わりに迫るストーリーが展開される。

渾身のピクセルアートで青春と喪失と物語を描く美しいゲームだった……!

 

 

主人公は高校卒業を間近に控えたアトマ。

彼女のラヤと一緒に青春ロードを突っ走っていたが、

謎の少女と一緒に創作をする夢を見たり、

ラヤが不思議な力を使うところを目撃したり、

街の人達がおかしくなる現象に襲われたり、

アトマ自身も人の心の中に入る「スペースダイブ」という力を得たりと、

高校卒業を間近に控えた大事な時期なのに大騒ぎ!

 

 

ラヤと一緒に作った「やりたいことリスト」を埋めつつ、

おかしくなった街の人をスペースダイブで助け、

物語の謎に迫っていくストーリーだ。

青春に絡みあった謎の数々でプレイヤーをグイグイ引っ張っていくぞ。

冒頭から意表を突いた展開で掴みもバッチリ。

 

 

ゲームとしては昔ながらのアドベンチャーゲームっぽい構成で、

街を歩き回ってゲーム進行に必要なアイテムを探していく。

学校をサボるのに必要なロープを探そう!とか、

様子のおかしい人が道をふさいでて進めないからスペースダイブで正気に戻そう!

とかね。

街中にいるネコを片っ端からモフモフすることも出来る。

 

 

スペースダイブで人の心に入ると様々な理由で苦しんでいるので、

謎を解いたりアイテムを渡したりして彼らの心を解きほぐしていく。

進行度に応じて背景の木が少しずつ花開いていき、

完全解放が出来れば心に花が咲くのだ。タイトル回収が早いゲームだぜ!

 

謎解きは正しいスイッチを押すものやパイプ管パズル、

ナンバーロックなどよくあるものが多いが、

ゲームの雰囲気には上手く落とし込んである。

全体的に難易度低めなものの、後半はちょっと難しいのもあって手こずった。

具体的に言うと数式とマンガだ!

 

 

「その人間がどういう状態か」によって心の中は変化するので、

アトマを待ち受ける障害は様々。

心の中で怪物が暴れ回っているので攻撃を避けながら進む必要があったり、

料理勝負を協力することになったり……。

 

 

いきなり『逆転裁判』が始まるとか

ギャグっぽいシーンもちょいちょいあって笑える。

自分を別人だと思い込んでる人に、

証拠品をぶつけて自我を取り戻させるシリアスな場面なんだけど、

演出があまりにノリノリ!

 

お約束の「異議あり!」よりも、新聞の切り抜きを証拠として渡したら、

間違えて裏から読まれちゃう小ボケの方がリスペクト感じた。

他にも「そのネタやるの!?」と言いたくなる

エッジの効いたパロディがあったりで楽しい。

 

 

昔ながらのアドベンチャーゲームとして王道的な面白さがあるし、

ピクセルアートで表現された背景美術の作り込みが凄い。

小物までしっかり描き込まれたマップで

モブキャラの動きも細かいため、人が生きて生活している感が伝わってくる。

ここを作り込んでるからこそ、

展開される「会話や出来事のズレ」による違和感や、

スペースダイブで飛び込む登場人物たち個々のエピソード。

そして悲しくも美しい「世界の終わり」が引き立ってる。

 

 

このネットカフェの雰囲気を見てくれよ!

90年代のインドネシアの田舎町が舞台ではあるんだけど、

日本の片田舎っぽい空気感もあるから、日本人が遊んでもノスタルジーを感じる。

 

 

たまに聞きなれない食べ物が出てくるのも異国情緒があってそれはそれで良し!

ゲームを遊んだ後に調べたくなる。

こういうきっかけで知らない文化に興味を持てるのは良い事だ。

 

というわけでトラネットを調べてみたけど……全然情報が出てこないんだが!

どんな食い物なんだ!?

 


ここぞという場面での全画面を使ったドット演出も引き込まれるぜ。

表情と画の奥行きが凄い。

 

 

登場キャラも魅力的で、主人公であるアトマが特に良い。

次々に襲い掛かる出来事に困惑しつつも、

恐れずブレずに彼女のラヤを追いかける姿はこれぞ主人公!って頼もしさだ。

ラヤの偉そうな態度だけどほっとけないところや、

アトマとのデートを楽しみにしてるところ、いじらしいところも魅力的。

 

 

お気に入りはアトマとラヤが映画館デートしてポップコーンを食べるシーン。

ボタンを押してポップコーンを食べるだけだが、

タイミングによってはお互いの手がぶつかって照れちゃう。

甘酸っぺぇ~!プレイヤーの操作が演出を作るのだ!

 

『VA-11 Hall-A ヴァルハラ』にも、

ボタン押してビールを飲むシーンあって空気感好きだったなぁ。

まあ、あっちは飲み過ぎると主人公が泥酔して下ネタを言いまくる、

単に酸っぱいシーンだったが……。

 

 

ピクアルアートにマッチしたフォント選びも見事だし、

日本版『コーヒートーク』も担当した小川公貴さんによる翻訳も文句無し。

ギャグシーンで特に実感する。丁寧なローカライズに感謝だ!

 

 

ゲームとして気になった点は取り逃しを後から回収できない点。

街のあちこちで「やりたいことリスト」に関連したサブクエストがあるんだが、

発生してるかどうかを確認する術が無いし、見逃したらもう回収できない。

チャプターセレクトなんかも無いので最初からやり直すしかないぞ。

シナリオが進行する時は「はい/いいえ」で確認が入るので、

コンプ狙う人は念のためセーブデータを分けた方がいい。

 

 

劇中では方向キーを入力してのバトルパートもちょいちょい挟まる。

盛り上がるシーンも多いので悪くは無いんだが、

失敗してもすぐやり直せるとはいえ変なシビアだったり、

回数が多すぎる箇所があったりするのは気になったな。

 

 

クリアまでは10時間ほど。

圧巻のピクセルアートで青春と喪失と物語を描く、

切なくも前向きなシナリオが素晴らしかった。

全貌が明らかになるにつれて

「あれはそういう意味だったのか……」と胸が締め付けられた。

登場人物それぞれの描き方が丁寧で、本筋に関係なさそうな脇役たちとのイベントも、

テーマに繋がっていて必要だったと思えるし、普遍的かつ印象に残るエピソード揃い。

優しいBGMの数々も雰囲気にマッチしてる。良いゲームだったぜ!