PS4版で2周クリアした『ナイト・イン・ザ・ウッズ』のレビュー行くぜ!
メーカー:PLAYISM
機種:PS4/Switch/PC
ジャンル:アドベンチャーゲーム
発売日:2019/03/28(PS4/Switch)
価格(税込):1980円
デフォルメされたかわいい動物がたくさん出てきて、
こちらの胸にグサグサ刺さる生々しいやり取りをするアドベンチャーゲームだ!
遊んでいて色々辛くなる内容ではあったが、
登場キャラ1人1人が生きていると感じられる会話の数々に、
見事な背景美術で表現されたイベントの空気感が心に残る1本だった。
主人公は大学を中退して、
地元である田舎町ポッサム・スプリングに帰ってきた女の子のメイ。
久々に会う友人や町の住人たちと会話して生活しているうちに、
とある失踪事件に巻き込まれていくというストーリーだ。
こう書くとサスペンスっぽいが、
基本的にはポッサム・スプリングに住む住人との交流がゲームの大半を占める構成。
ゲーム自体はオーソドックスなアドベンチャーゲームで、
街を移動してキャラと会話してストーリーを進めていく。
次に何をすればいいかはすぐ分かるが、
本筋から外れたサブイベントもあちこちに散りばめられているので、
隅々まで歩き回った方が町への思い入れが深まるぞ。
電線や屋根の上も歩けることに気づかないと見逃すイベントもあったり。
選択肢で会話やイベントがかなり細かく変化していくし、
ちょっとしたミニゲームもあるものの、
ゲームオーバーは無いし基本的にエンディングも一つだけだ。
町の住人はとにかく個性的なキャラ揃いで、
アホみたいな会話からシニカルな会話まで、
毒の混じったテキストがいちいちキレッキレ。
片っ端からメイと彼らの会話を見ているだけで飽きない面白さだ。
冒頭の父親との掛け合いだけでまず笑わせられる。
大学中退して帰ってきたメイにはバンドをやっている3人の親友がいる。
父親の家業をやらされて働きづめのビー(左上)、
お調子者でヤバい遊びも好きだが今は真面目に働いてもいるグレッグ(右下)、
穏やか性格で頭がよく、グレッグのパートナーであるアンガス(右上)。
物語はこの4人を軸に進んで進行していく。
メイは色々あって大分メンタルをやられており、
遊んでいるこっちも不安になったりハラハラしたりさせられるんだが、
親友たちと下品な冗談を言い合ったり、
一緒に出掛けたり遊んだりしてる姿は楽しくて救われる。
しかし親友たちと昔のように盛り上がるものの、
みんな少しずつ大人になっていてどこか噛み合わないところがある。
家に帰れば少し老けたように見えるパパとママが待っている。
ポッサム・スプリングはどん詰まりの田舎町なので、
聞こえてくるのは景気の悪い話ばかりだ。段々と変な夢をみるようにもなる。
少しずつ胸に謎と不安が溜まっていく中で、モラトリアムを過ごす日々が続いていく。
話を進めるごとに顔を出す、
メイの地雷に正拳突きを叩き込むような空気の読めなさにも胃が痛くなるぞ!
酒を飲み過ぎて大失敗したり、
日々の生活で擦り切れている友人に対して、
良かれと思って大学中退というフットワークから繰り出す正論を叩きつけたり!
これが普通の人間ではなく、
デフォルメされた動物が出てくるゲームで良かったと思える生々しいつらさ。
というかデフォルメされた動物でもつらいよこれ!
交流を再開した親友たちのやり取りで、
彼らの悩みや不安、そして前に進もうとしている姿が丁寧に描かれているし、
それを受けてメイも色々な事を考えていく。
こういった生々しい会話や細かい心情描写の積み重ねでストーリーが進んでいくため、
登場キャラに愛着が湧いていくし、
ようやく失踪事件に関する物語が動き出してからの不気味さも際立っているね。
一番好きなのはアンガスと星座を探すイベント。
美しい星座を紡ぎながらの雑談で、
アンガスの性格と、これまでと、これからが繋がる内容に胸を打たれた。
一番感情移入出来たのはビー。メインキャラの中でもっとも人間臭く、
メイに対する複雑な感情がにじみ出る態度が切ない。
ふざけた態度のグレッグも時折見せる本音が忘れられない。
メイのお父さんとお母さんも優しくて精一杯頑張ってるのが伝わる
それだけに色々とつらい……!
みんな幸せになって欲しいなぁって心から願いたくなるゲームだわ。
町にいるサブキャラもみんな印象に残る人物ばかりで、
いつも詩を作っている女の子や、屋根に上って星を観測してる先生に、
教会にいる牧師さん、町はずれに住むホームレス、
いつも野球チームの話をしている2人組、求職中のにいちゃんなどなど。
大量のキャラがおり、すべてゲーム進行に合わせて細かくセリフが変わるし、
それで発生するサブイベントやミニゲームも沢山あるぞ。
このゲームのサブイベントは一回の選択だけで変化があるのではなく、
細かい会話を重ねることで様々な変化が起こるようになっている。
いつも詩を作っているセルマーズの詩を
律儀に聞いてると発生するサブイベントはすごかった。あれこそ叫びだわ。
キャラデザはシンプルだが、表情や動きが細かくて活き活きとしているし、
背景美術や小物の作り込みも凄まじいクオリティ。
新しい場所が出てくるたびにどんな場所か楽しみになるし、
細かいところまで見ることで色々発見があったりも。
BGMも名曲揃いで、バンドのミニゲームで聴けるものはどれもイカしてる。
架け橋ゲームズによるローカライズも凄まじいレベルだ。
軽妙な会話テキストはもちろん、
ゲーム進行に合わせて更新されるメイの日記も、
手書き文字まで含めてすべて日本語化されているぞ。すげぇわ。
会話劇のデキや雰囲気作りが上手いだけに、
ゲームとしてしばしばテンポの悪さを感じるのが惜しいところ。
夢の中を彷徨って楽団を探すイベントが定期的に挟まるのだが、
これが薄暗く入りくんだマップを行ったり来たりするので大分めんどくさい。
しばらく歩き回ってると光でヒントが出るんだが、
大まかな方向が分かるだけなのがつらいところだ。
夢の中のビジュアルは見事なんだけどね。
ダメ人間として描かれているメイなんだが、
普通に犯罪をやるのはちょっと引いてしまったなぁ。
ここら辺は海外との温度差なのかも。
その辺含めても愛おしくなってしまうキャラではあったけどね。
クリアまでは1周5時間ほどで、エンディング自体は変わらないものの、
「二人のうちどちらと行動する?」という選択で
見れるイベントと見れないイベントが出てくる箇所が多いので、
2周して基本的なイベントは押さえてもらいたいかな。
本気で気まずくなるような喧嘩をしたり、本気で険悪な空気になったりしても、
それでも大事な人だと言える友人や家族がいることは
素晴らしいことなんだなと……そう思える辛くも優しさのあるゲーム。
顔を合わせる度に状況が変わる沢山の人々。
移り変わる町の景色。呪いに近い過去の残滓。
あらゆる意味で「時間が進んでいる」ことが感じられるのがとても好きなところ。
登場するキャラにも、町にも、確かに血が通っていたよ。
興味をもった人は是非ともメイと共にポッサム・スプリングへ旅立ってくれ!